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思考を暗所で常温保存

【ネタバレ有】『TENET』(テネット)感想と考察

どうも

 

最近、「自分の車の走行距離」と「自分のブログのアクセス数」に奇妙なリンクがあることに気づいた私です

 

少し前に自分の車の走行距離が10万キロを超えたんですけれども、そのタイミングで拙ブログのアクセス数もなぜか10万件を超えまして

 

「なんだこれは、陰謀か?」

 

と思い、ブログを再開することといたしました

 

 

 

 

嘘です

  

 

実際のところ、このブログが突然再開するときは「何か面白い映画を見つけたとき」か「自分の本が出るとき」なんですけれども、今回の場合は両方なんですね

 

ただ本の話は蛇足になるので、この記事では全力で『TENET』の話をしていこうと思います

 

※ここからは2020年9月18日公開となりました、クリストファー・ノーラン監督『TENET』の感想と考察をネタバレ全開でお送りしていきます

まだご覧になっていない方は、くれぐれもご注意ください

 

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『TENET』はノーラン版007?

さて世間では「陰謀といえばCIA」と相場が決まっておるわけですけれども、『TENET』はCIAと旧ソ連関係者の対立を軸に、主人公が第三次世界大戦を防ぐために戦うという、いまどき珍しいゴリゴリのスパイ・陰謀映画です

 

設定だけ聞くと「007かな?」と見まがうような内容でして、ノーラン監督は過去に『007』の大ファンで新シリーズの監督をやりたいといった発言もしておりますので、実は『TENET』は、膨大な予算とノーラン監督の趣味をぶち込んだ『同人版007』という言い方も、あるいはできるのかもしれません

 

 実際、今回の悪役(ヴィラン)となるアンドレイ・セイタ―は旧ソ連にルーツを持つ武器商人でして、名前や見た目含めスラブ系の特徴をふんだんに持っております

そんなソ連系の人物をここまで露悪的に描くのもいまどきどうなんだという気持ちもありつつ、「やっぱソ連関わってた方がスパイ映画は盛り上がるじゃん!」というノーラン監督の心の声が聞こえてきそうな、大変分かりやすい悪役が登場するのがこの『TENET』でございます

 ただ、分かりやすいのはこの悪役のセイターくらいのもので、他の全編がめちゃくちゃ難解なのが『TENET』の特徴とも言えるかと思います

『TENET』を難解にしている「逆行」について 

『TENET』を難解にしている最大の要因は、時間を遡る「逆行」現象かと思われます

一見、荒唐無稽なこの現象ですが、少し物理的な話をしますと、この世界にある四つの力(電磁気力、強い力、弱い力、重力)のうち、重力以外は正逆( 簡単に言うとこういう ⇄)二つの方向性を持っており、単方向と言われてきた重力についても、やっぱり打ち消す力(逆の力)があるんじゃないの、といったことが物理学者の口からも囁かれております

参考:残された謎 宇宙定数の正体を追え(日経サイエンス)

であれば、「時間」も正逆(⇄)二つの方向性があってもおかしくないんじゃないの、というのが恐らくこの映画で描写された「逆行」の根底にある考えで、『インターステラー』でガチの物理学者キップ・ソーンに監修を依頼した過去のあるノーラン監督は、そのあたりのこともガチで考えてこの設定を作ったのではないかと思われます

参考: マクスウェルの悪魔とは?(京都大学工学部 電気電子工学)

で、作中誰がどのように「逆行」して時間軸を移動していたのかについては、趣味独学映像クリエイターの「たてはま」さんがすばらしい図を制作されており、最も難解であろうカーチェイスのシーンについても丁寧に動画で解説をされているので、「何が起こっているかよく分からんかった…」という方は、ぜひ以下のたてはまさんの動画をご覧ください

https://twitter.com/cgbeginner/status/1307501473358462976?s=20

 

 

 描写されている内容についてはすでにしっかり解説してくださっている方がいらっしゃるので、じゃあこの記事は何をやるかということなんですけれども、基本的には、「描かれていないこと」、そして「描かれているものの極めて分かりづらいこと」について考察を加えていきます

具体的には、

1.「TENET」とは何か

2.「主役」とは誰だったのか

3.「ある人物」に関する噂

この三点について、深く考察していきたいと思います

 

1.『TENET』とは何か

まず、『TENET』は説明嫌いのノーラン監督作品の中でも群を抜いて説明が少ない映画であると思うのですが、作品中に何度も登場しながら、結局何なのかよく分からない最大の存在が『TENET』という単語そのものではないかと思われます

 

ネタバレ全開と書きましたので、ここからはもうクライマックスに関わる話をどんどんしていきますが、『TENET』は作品中では「主義」と訳され、終盤では、視点人物である「名もなき男」が将来作る「組織の名前」であることも示されました

 

でも組織の名前が「主義」って、正直意味わかんないですよね

 

だいたい、組織というのは何かの主義を持った、またはある主義を目指す人たちの集まりであって、名前にはその組織の「主義」を表す単語が使われるのが普通です

たとえば『幻影旅団』なら「幻のように社会から姿を隠匿しながらさすらう」といったコンセプトが感じられますし、『ギニュー特戦隊』なら「ギニュー様を中心に奇特な人たちが集まって戦ってます」といったことがちゃんと伝わってくるわけです

 

じゃあ、この組織が持つ「主義」、目指すものとは何なのか?

ここからは私の解釈ですが、彼らの組織名をより詳しく説明すると、『TENET』のような状態を目指している組織と言えるのではないかと考えています

『TENET』のような状態とは?

言葉で説明するとややこしくなりますので、ここでは図に登場していただきましょう

こちらが、『TENET』のような状態の図です

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出典: Wikipedia『SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS 』

私もこの映画を観て初めて知ったんですけれども、こちらはおそらく現存する中で最古の回文「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」のワード・スクエアです

 

SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS.

これはラテン語で「農夫のアレポ氏は馬鋤きを曳いて仕事をする」という意味の文章であります

この回文のすごいところは、前から読んでも後ろから読んでも同じになることは勿論、上記のワード・パズルのように並べると、縦に読んでも横に読んでも「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」と読めるということです

いわば「キング・オブ・回文」ですね

 

そして図を見ていただければお分かりの通り、 『TENET』はこの回文の中核となる単語です

さらに勘の良い方はすでにお気づきかもしれません

このワード・パズルに登場する単語、全部映画の中に出てきていたんですね

 

SATOR…悪役、アンドレイ・セイタ―の苗字
AREPOゴヤの贋作を描いた画家の名前
TENET…「名もなき男」が立ち上げる組織名
OPERA…冒頭のテロ発生現場、オペラハウス
ROTAS…「フリーポーター」運営会社の名前

 

よって、この映画で何度も登場する『TENET』という単語は、この回文の一部、さらに言えば「回文状態」を指すと捉えるのが妥当ではないかと思われます

このような要素から私は、この映画の視点人物である「名もなき男」は、「世界が『回文状態』であり続けること」を目指してこの名前を組織につけたのではないかと思いました

 

世界が「回文状態」であり続けるとはどういうことか?

この物語の悪役(ヴィラン)であるセイターは、未来人の「世界全体を逆行させる」という野望の駒として動いていました

作中では「人物」や「物体」が世界を逆行することはあっても、世界自体が逆行する現象は最後まで起きませんでした

世界全体が逆行した場合、物理法則すべてが『逆行』するため、『順行』の物理法則でのみ息ができる人類は、すべて呼吸困難に陥り、たちどころに死滅します

未来人は環境が大きく破壊された地球で「順行」の時間軸のまま暮らし続けることに限界を感じ、世界の時間軸自体を「逆行」させ、その逆行した世界で生きていこうと考えたわけです

この野望が達成されてしまえば、「名もなき男」をはじめ、今までこの世界で生きてきた人々は不可逆的に消滅し、二度と「順行」も「逆行」もできなくなります

だからこそ、「名もなき男」はこの「一方的な未来」と戦うための組織を、「回文状態」の象徴である『TENET』と名付けたのではないかと思います

改めてこの映画のタイトルを日本語に訳すとすれば、恐らく『回文世界』などが適切ではないでしょうか(書いてから、実際中国ではこんな感じの名前で公開されてそうだなと思いました )

 

2.『主役』とは誰だったのか

次に考えていきたいのは、「主役」についてです

ごく素直に考えれば、この映画の「主役」はCIAの元諜報員である腕利きのスパイ「名もなき男」になりますし、ご丁寧にラストシーンでは彼自身が「俺が主役だ」という旨の発言をするのですが、あのシーンに、なんともいえない違和感を覚えた方は多いのではないでしょうか

というのも、この「名もなき男」さん、たしかにずっと物語の中心にはいるのですが、どこか空虚な感じがするというか、主体性がない感じがするわけです

名前も「名もなき男」ということで、一度も名乗ることも、自分の名前が誰かに叫ばれることもありません

この人物の役割にあえて名前をつけるとすれば、私は「観測者」が適切なのではないかと思いました

キャプション的には、「観測者(※「主役」の一人)」みたいな感じですね

 

映画内ではわざとミスリードさせるようなタイミングで単語が登場するのですが、この作品世界では、パラレルワールドというものは存在せず、主人公は「決定論」的な世界を生きています

別の言い方をすれば、「名もなき男」が生きている世界はたった一つで、自分の行動の結果によって世界が分岐したりは決してしなかったということです

この「名もなき男」に感じる「主体性のなさ」は、おそらくこの設定が原因なんですね

つまりどれだけ頑張ろうとも頑張るまいとも、この「名もなき男」は、すでに観測した世界をなぞることが分かっている

だからなのか、普通の映画の「主役」のような、「俺が世界をなんとかしてやる!」といった熱がやや弱い感じがしてしまうわけです

(もちろん、本人は一生懸命やっていますし、「観測した世界をなぞっている」だけなのにここまで迫力ある見せ方をできるノーラン監督は、やはり天才だとも思います)

では、この映画の本来的な意味での「主役」は誰だったのかというと、私はやはり、ニールこそがその名にふさわしいのではないかと考えます

私が「ニール」を「主役」だと思う理由

映画『TENET』は「名もなき男」を唯一の視点人物に物語が語られるため、「名もなき男」と関わらないときに誰が何をしていたのかが分かりにくいのですが、その状況下においても、ニールは「主役」と呼ぶにふさわしいレベルのことをやっています

 

まずは冒頭、オペラハウスのテロリスト襲撃の場面

「名もなき男」は、自身の正体が怪しまれ絶体絶命に陥ったところを、「逆行」弾を使うガスマスクの男に救われます

その男の鞄には、あの五円玉のようなチャームが……

実はお互いに自己紹介をする前から、「名もなき男」はニールに命を救われていたんですね

この場面のニールは、武装組織『TENET』のリーダーとなった「名もなき男」と未来で出会い、その指示を受けて長い「逆行」の旅を続けた末、ついに「名もなき男」の若い頃に出会い、その窮地を助けた状況と思われます

『TENET』の世界でできることはあくまで時間の「逆行」なので、例えば十年前に戻ろうと思うと、例の回転ドアに入って十年「逆行」生活を続ける必要がある訳ですね

組織の助けはあったでしょうが、その間のニールの暮らしはつらく厳しいものだったのではないでしょうか

生半可ではない「名もなき男」とニールの関係

そして、組織『TENET』の力(おそらく回転ドア装備の船)を借り、「順行」に戻ったニールは、「名もなき男」と出会い、共に任務をこなしていきます

「任務中は酒を呑まない(ダイエットコークを飲む)」ことを知っていたのは、過去にそれを知る程度には「名もなき男」と親密だったということの表れと思われます

諸々あった後、『TENET』を初めて知った(ふりをした)ニールは、「名もなき男」に「僕は殺される?」と尋ねます

驚くのは、この質問に「俺次第だ」と答えた「名もなき男」に対して、ニールが「それならいいや」と答えることです

「名もなき男」はこの回答を笑って受け流すのですが、普通、自分の生死が相手次第で決まると言われ、「それならいい」とまで言えるでしょうか?

きっとニールは、この「名もなき男」のことを、未来の世界で本当に慕っていたのだろうと思います

あまりにあっけなく描写されるクライマックス

この『TENET』という作品、全体的にものすごいことをやってのけている映画だと思うのですが、その中でも私が一番の「凄味」を感じたのが、ニールの最期です

私は、あのシークエンスがこの物語のクライマックスだと勝手に認識しているのですが、この「ニールの最期」のシーン、どこがすごいかというと、初見では一体何が起きたのかすら分からないほど一瞬で描写されていて、後から、どんどんと、その一挙手一投足の意味の重みが伝わってくるということです

 

正直、あのシーンについて、一回目の鑑賞の際はすべてが突然に起きるので「誰かが鍵を開けてくれて、それからすぐ撃たれた」くらいにしか認識できず、最後の会話でニールのチャームが大写しになることで「撃たれたのはニールだった」と気づくのがやっとでした

ただ、二回目の観賞で分かったのは、ニールが最期に取った行動は、初めに受けた印象よりもはるかに重く、悲壮な決意のこもったものだったということです

 

あのシークエンスを注意深く見ると、「順行」視点の「名もなき男」からは、このような光景が目に映っていたことが分かります

 

(「名もなき男」視点)

青い目印を戦闘服につけた、マスクの男が倒れている

マスクの男が突然起き上がり、扉の前で撃たれる

マスクの男が扉を開ける

アイヴスと共に扉をくぐって柵の内側に入る

格闘の末、ボルコフを穴に落とす

 

スタルスク12の戦闘が終わった後、三人で話すシーンでアイヴスがニールに「鍵を開けるのが得意」だとわざわざ言うので、初見だとマスクの男(ニール)はどうしても「鍵を開けた」ように見え、ノーラン監督もわざとそう誤解されるような仕掛けにしているようなんですね

でも実際は、そうではなかったんです

 

ニールは、スタルスク12内の回転ドアを使い、「逆行」状態で地下に向かっています

そのため、ニールの行動はすべて「逆」に追っていかなくてはいけません

つまり、ニールの眼に映った実際の光景と彼の行動は、こうなります

 

(ニール視点)

穴からあがってきたボルコフと、「名もなき男」が格闘になる

「名もなき男」とアイヴスが扉をくぐって柵の外側に出ていく

自らの手で扉に鍵をかける

ボルコフと「名もなき男」の間に立つ

銃弾に倒れる

 

つまり、わずか先の未来で「名もなき男」がボルコフを倒す光景を観たニールは、咄嗟にボルコフと自分だけをあの空間に隔離し、身を挺して、世界を救う可能性のある「名もなき男」を庇う決断をした

これが、ニールの本当の最期だったのです

 

普通の映画監督であれば、スローモーションにして、登場人物にニールの名前を叫ばせ、感動的な音楽をかけてしまうようなシーンです

それをノーラン監督は、ほとんど事故のようなあの一瞬で描写してきたのです

 

ここまで描けば、きっとお分かりいただけるかと思います

ニールは、一度ならず二度も、「名もなき男」の命を救っていた

それも一度は、最大級の自己犠牲を伴ってです

このニールほど「主役」と呼ぶにふさわしい人物が、他にいるでしょうか

 

3.ある人物に関する噂

さて

気づけば7000字近くなりましたこの記事も、最後の項目となりました

 

「ある人物」とは誰か?

お察しの良い方であればすでにお気づきのことかと思います

 

実は海外のSNSでは、公開直後から「ニール」についてある噂が流れていました

それは、ニールはキャットの息子、「マックス」の成長した姿だというものです

 

「ニール=マックス」説 【根拠①】名前の綴り

この「ニール=マックス」説について、はじめに根拠として挙げられていたのが名前の綴りです

 

「Max(マックス)」という愛称は、通常、ヨーロッパでは「Maximilien(マクシミリアン)」という名前に対して多く使われます

この「Maximilien(マクシミリアン)の綴りを後ろから遡ると……「Neil(ニール)」

つまり、「Maximilien(マクシミリアン)が世界を「逆行」する際に使っているコードネームが「Neil(ニール)」なのではないか、というわけです

 

この噂について、正直なところ、私ははじめ「うさんくさい」と思っていました

どことなく都市伝説っぽいというか、大昔に2ちゃんねるで流行った「実は『となりのトトロ』のメイちゃんは死んでる」的なコピペと同じ匂いを感じたからです

(※メイちゃん生きてます 三鷹の森で続きのアニメが見れますのでぜひ見てください)

 

しかし、この説を頭に入れてから二度目の観賞へ向かった結果、私はなんだか、とんでもない世界の入口を見つけてしまった気持ちになりました

 

「ニール=マックス」説 【根拠②】登場人物の反応

 先述したように、私は「ニール=マックス」説には懐疑的で、いちばんの理由は「もしそうだったらニールのキャットに対する反応が薄すぎるだろ」というものでした

一回目見た印象では、ニールはキャットに対して特別変わった反応を見せた覚えはなく、おそらく女手一つで育ててくれた実の母に、そんな塩対応をするわけないだろうと思ったのです

しかし結論から言いますと、ニールの劇中の反応からは、「ニール=マックス」説を否定する材料は何も出て来ませんでした

それどころか、よく見ると怪しい反応がいくつもあるのです

 

たとえば、ニールは腹を撃たれ、「逆行」の話を聞かされ不安になったキャットから「私と息子はどうなるの」という旨のことを問われます

これに対してニールは、「まずは物理学の講義からはじめようか」と答えます

他にも、ニールがキャットから息子について問われるシーンは何度かあるのですが、そのたびに、ニールはうまくはぐらかし、一度もキャットの息子について言及しません

 

その上で、最も重要に思えるのが、「名もなき男」の反応です

「名もなき男」は作戦を伝えたキャットから「息子の最期に(父と)ケンカをしているところなんか見せたくない」という旨のことを言われます

この言葉に対して「名もなき男」は「最期じゃないさ」と答え、その後、画面の奥に目をやります

前のシーンからのつながりを見ると、その視線の先にいる人物が、ニールなのです

 

「ニール=マックス」説 【根拠③】農耕神サトゥルヌス

そして二回目の観賞を終え、興奮冷めやらぬままこの記事でも紹介いたしましたWikipediaの「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」の項目を読んでいたところ、また気になる描写を見つけました

「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」という回文は、"「農夫のアレポ氏は馬鋤きを曳いて仕事をする」という意味に翻訳できるが、SATORを農夫ではなく農耕神サトゥルヌス、AREPOを名前ではなく「大地の産物」と解釈して二重の意味を持たせていると取ることもできる”のだそうです

農耕神サトゥルヌスについて調べてみると、作中にも贋作が登場していたゴヤの別作品『我が子を食らうサトゥルヌス』のWikipedia記事がヒットしました(大変怖い絵ですので、観るときは覚悟を決めましょう)

なんでも"サトゥルヌス(ギリシア神話のクロノスに相当)は将来、自分の子に殺されるという予言に恐れを抱き5人の子を次々に呑み込んでいったという伝承"があるのだそうです

 セイタ―(SATOR)は、ニールのスタルスク12での活躍もあり、「時を支配する神」になりそこない、命を落とすことになりました

こうした状況からも、ニール=マックス(Max)という説は、それなりに信憑が高いように思われます

 

「ニール=マックス」説 【根拠④】マクスウェルの悪魔

これも先にご紹介させていただいた「たてはま」さんの動画で知った情報になるのですが、『TENET』の世界観はマクスウェルの悪魔と言われる思考実験に影響を受けており、そのことは研究室に一瞬映る「ホワイトボード」の描写からも裏付けられています

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マクスウェルの悪魔』は本気で説明すると大変ややこしいお話ですので、詳細はまた上記のたてはまさんの動画をご覧いただくとして、ごく簡単に言えば「必ず増大するとされていたエントロピーに、減少させる方法があるのではないか」という思考実験です

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出典: 『マクスウェルの悪魔』(Wikipedia

この思考実験の画像、ご覧いただくとお気づきになるかと思いますが、キャットが「逆光弾」で撃たれたあの部屋の構造ととてもよく似ていてますよね

こうしたことからも、映画『TENET』が思考実験「マクスウェルの悪魔」に影響を受けていることは、ほぼ確実といえるかと思います

 

その上で、なんでこんな思考実験が「ニール=マックス説」と関わるんだというお話ですが、当然といえば当然、この思考実験を考えた物理学者の名前が、マクスウェル(Maxwellなんですね

『TENET』には一人だけ、物理学の修士号を持った人物が登場していましたよね

そう、我らがニールです

これは根拠としてはやや薄弱かもしれませんが、あのノーラン監督が、何の意味もなく「マックス」という単語と「ニール」をつなげるような符合を残すでしょうか?

「ニール=マックス」説 おまけ

ということで、ここまで見てきた「ニール=マックス」説ですが、「年齢的にどうなの?」といった意見が一部にはあるようです

これは個人的にはまったく違和感はないと思っております

具体的には、マックスが修士号を取得した後、映画冒頭の時間軸に戻ってきてニールの年齢になるのかを検証してみましょう

マックスが修士号を取得した年齢を20代前半として、映画ラストの時間からは約10年程度の歳月が経過します(マックスは名門校に通っていますので、もう少し早く取得した可能性もあるかもしれません)

修士号取得後に「名もなき男」から声をかけられ、『TENET』に所属、回転ドアをくぐって時代を逆行し、オペラハウスへと向かうと、また約10年の歳月が経過

この場合、ニールの年齢は34歳~40歳くらいであれば問題ありません

今回ニールを好演した俳優、ロバート・パティンソンの実年齢は34歳です

ということで、年齢的にも時系列的にもそれほど無理は生じないと思われます

 

『TENET』は二回目以降が面白い

さて

ここまで延々と記してまいりました『TENET』感想と考察記事でございますけれども、お伝えしたいことはシンプルです

『TENET』は最低二回観ましょう

一回ですべての内容を理解できたら、そのほうがどうかしている

そんな映画でございます 

個人的には、『シン・ゴジラ』以来のドハマりした映画となりました

この記事が『TENET』を多くの人にお楽しみいただく一助となれば幸いでございます